なめてましたすみません(1)英語はやっぱり大事

総合商社で金属資源系の貿易・事業投資を4年程経験した後、カリフォルニアの地に降り立ちました。生まれが貧乏な上に妻子持ちで私費なので更に貧乏です。ビジットされても大したものはご馳走できません!海外経験としては、過去に2年間ボツワナ共和国(アフリカ)住んでましたが、アメリカは初めてです。

 

さて、早速ですが、懺悔します。

 

なめてました。

 

色々なめていたんですが、まずは英語。2年アフリカに住んでたし(日本大使館に勤務)、仕事でも使ってたし、TOEFLも結構良い点数だし、まぁ余裕だろと思っていました。そんな私に喝だっ!!(サンデー〇ーニング)と言ってやりたい。

 
想像してみよう。

 

日本とは文化的にも言語的にもかけ離れたナメック共和国出身のバータック君は、日本語が公用語であるパラオ共和国アウンガル州でインターンした経験から日本語が得意だ。帰国後はナメック共和国の大手貿易会社三位物産に勤務し、海外支店の同僚や世界の取引先と世界のビジネス共通語たる日本語で丁々発止やりとりをしてきた。最近は人気ドラマ「花より談合」も2シリーズ字幕無しで制覇し、部署内で日本語で右に出るもの無しのバータック無双。そんな彼はついに憧れの日本留学の切符を手にし、東京の西の雄、二橋大学へ経営学を学び行くことになった。

 

「これほど日本の経験値を積んだものは他にあるまい・・・スカウターで言えばボンっ!!だ。取りうるすべてのクラス、目に映るすべてのクラブ、そして待ち受けるすべての課外活動でリーダーシップポジションを手中にし、リーダーオブリーダーとして武蔵野の地に君臨するのだ・・・!!」

 

日本到着初日、バータック君は予想だにしない一撃をくらうことになる。

 

「タイガースと巨人どっち好きやねん?」

 

正面の真関西空港職員はそう言い放った。

 

タイガース?武器かなにかだろうか?いやいや、私はただの留学生で御国に武器弾薬を持ち込もうだなんて思っちゃおりませんよ・・・ 巨人てなんだ?大きい人という意味だったような気がするが・・・そして、好きやねんとはなんだ?好きじゃないということか?この人は、「武器も、大きい人も、どっちも嫌だよ、平和にとって良くないよ」というロビイストなんだろうか?みんな違ってみんないい、が答えなのか?

バータック君は困惑した。空港職員の発言の支離滅裂さに、そして空港職員から業務に関係ないことを話かけられていることに、そして、日本到着のその瞬間から困惑してしまっている自分に。

 

こんなはずでは・・・!

 

空港職員との禅問答の、砂をかむようなあの感触を抱きながら、バータック君はPre-MBA(本格的な授業が始まる前の導入的な授業)初日を迎えた。Communication論の教授はアイスブレークとして、自分について知っていて欲しいことを三つ書き出し、2人ペアになって発表したあと、相手の三項目を再現してみましょう、と指示をした。

 

さわやかそうな日本人男性とペアを組み早速自己紹介。

「ナメック共和国出身です。むかし、2年パラオに住んでました。そこで日本語を勉強しました。花より談合が好きです。シリーズ1の最後のシーンは3,842回は見ました・・・」

意気揚々と説明するバータック君に続き、日本人男性が自己紹介・・・

「山崎と言います。まず出身ですね。生まれは長崎、長崎と言っても島原ですね。天草史郎のやつです、隠れキリシタンのね。ははっ。その後すぐに大阪の堺市に移ったので、気質的には関西人です。私もドラマは好きですよ。ちょっと古いですが、名作といえば白い巨塔ですかね。山崎豊子の原作の力強さもさることながら、出演陣の豪華さに驚かされます。仕事は監査法人勤務で、公認会計士として主に上場企業の監査業務全般を担当しています。まだ4年目なので下っ端ですね、それから・・・」

 

 

ボンっ!!

 

 

完全に分からない。固有名詞が多すぎてなんの話か分からない。いや、固有名詞以前に話すスピードが速すぎる。かろうじて単語が拾える程度だ・・・

 

「それでは相手の説明を繰り返してあげてください」

 

 

まずいっ!!

 

 

「どうしましょうか?バータックさん、私の自己紹介、リピートしてもらえますか?」

 

やばいっ!でも、逃げるわけにも・・・!!

 

 

「はい、もちろんです」

 

 

「長崎さんは、島原で生まれました。内緒のキリシタンでしたが、あとで関西人になりました。テレビドラマが好きです。白い・・・あの、白い・・・白い豊子がすごく好きです。すごく豪華ですから。すごく驚きです。お仕事は、関西人で・・・でも、法人で、関西人兼法人で、4年間下っ端を担当しています」

 

 

「は・・・?」

 

***

 

こういう戦いがMBAでは日々繰り広げられているのです。特にMBA開始直後の数か月間はそうでしょう。

良く良く考えればあたり前です。一日中英語に、しかもネイティブの英語に埋もれ、自分も英語しか使えない環境におかれることは日本ではありえないのですから。表現、発音、リファレンス(アメリカンジョークだったり、有名人の話だったり)は、その文化の中に没入しないと習得しきれないものだと思います。私も一カ月前に、学校のイベントでグループを組んだ際、私以外全員がアメリカ人というメンバーにあたり死にそうになりました。発言頻度は周りの1/900程。ネクラ街道まっしぐら。

スーパー帰国子女でない限りは、コミュニケーションに関する自惚れは捨てましょう。自分が出来ないことを認め、それでもなお!という態度で、他学生の輪の中に突っ込んでいくのが、ドメスティック日本人MBA学生の歩むべき道ではないかと思います。私も日々頑張りたいと思います。